● 地域内イベントにおける共助行動を促進する地域通貨-能美の SACHI あんやと券を事例として-小林 重人(北陸先端科学技術大学院大学)

標記の論文について、要約しました。同論文の本体は末尾に表示しますが、上記タイトルをクリックしても本文が確認できます。

北陸先端科学技術大学院大学の小林重人さんのこの論文の内容は石川県能美市で実践された「地域通貨」、”ござっせ”と”あんやと券”について考察しており、地域通貨を実際に運用する場合の参考になるポイントが満載なので、地域通貨”ミーホ”を考える場合にも非常に参考になります。ユーチューブでも小林重人さんの講演を見ることができます。

小林重人さんの研究課題の一つに「マルチエージェント・シミュレーションとゲーミングによる地域通貨流通メカニズムに関する研究」というのがあります。マルチエージェント・シミュレーションとは何かについては表記上のリンクを辿ってください。

地域通貨はNHKのBS放送番組『エンデの遺言』が放映されてから、それに触発され、2000年初頭から日本各地で導入が図られてきましたが、必ずしも成功例ばかりではなく、失敗、衰退、自然消滅した例が数知れません。その主な理由に

● 地域通貨を運営する団体の資金不足や人的資源の不足

● 流通スキームの不備

● 地域における社会的・文化的背景を十分考慮せずに地域通貨を導入した

等といったことが考えられます。上記論文はこのことを踏まえ、「持続的な共助行動を促進するための地域通貨を実践するためにはどのようなことに配慮して設計・運営するべきか」という問題意識から、石川県能美市で実践された「2つの地域通貨の導入から終了するまでの過程を比較しながら考察」したものです。具体的にはコミュニティ志向型の地域通貨である”ござっせ”と”能美のSACHIあんやと券”の二つを分析の対象としています。

”ござっせ”=2005〜2007年に石川県の能美市内で試行。発行者はNPO法人ござっせ倶楽部で、地域通貨の試行は全国都市再生モデル調査の一環として位置付けられ、実質的には官民協働事業であった。発行枚数は多い。積極的に広報活動を行なった。発行目的は、地域づくり活動(ボランティア活動)及び地域経済の活性化をであった、流通がうまくいかず共助行動を促進するに至らなかった。流通単位は「ござっせ」で1ござっせ=1円として、能美市内の56の協賛店舗(全体の9.2%)での支払いの一部として利用できるほか、市内を走るコミュニティバスの乗車賃として支払うことできた。ござっせは円に換金することはできない。

”ござっせ”の入手方法=発行主体であるNPO法人が認めた地域づくり活動(イベントのボランティア、ワークショップへの出席等)に参加すると300ござっせがもらえる。個人間のサービスのやり取りでも使用可能。流通した1年半で総額2,668,800ござっせが発行されたが、90%以上が未使用のまま終わった。

”ござっせ”が流通しなかった理由=利用できるサービスメニューの不足。使用方法の分かりにくさ。ボランティア活動の主体である地域団体からの発行要請がほとんどなかった。無償ボランティアで活動できている団体にとっては、地域通貨を介した新たな共助関係をそもそも構築する必要がなかった。導入された地域通貨が既存の慣習や類似の制度によって否定的に認識されてしまった。協賛店舗にとってメリットが少なく、割引するだけのデメリットだけが大きくなった。利用者にとっても利用方法の煩雑さや魅力の低さから地域通貨の利用が敬遠され、双方ともにインセンティブが喚起されなかった。

”ござっせ”の失敗原因

1 そもそも需要のない状況で地域通貨が大量に供給されたこと

2 地域通貨を受け取るボランティアと地域通貨を受け入れるお店のそれぞれにとってメリットが少なく、両者が「お互い様」の関係になりにくい構造であった。

ござっせは、2007年の補助金の打ち切りにともなってに終了した。

「能見のSACHIあんやと券」は、毎年9月から11月にかけて能美市内で開催される複数のイベントの総称である「能美のSACHIまつり」で使用できる地域通貨で、有志が始めた活動であった。地域団体・組織が主催するイベントのスタッフの不足を解決するため、同まつりの助け合いを促進するための地域通貨として2015年9月〜11月までの3ヶ月間流通された。

発行主体は任意団体である「能美のSACHI あんやと券の会」が行い、会における役職や会費は一切なく、手伝える人が手伝える時に月1回集まる形で、ゆるい形で運営された。他の地域通貨の事例を調べ、問題点を洗い出して整理し、これらを解決するための新たな流通の仕組みを構築した。

——あんやと券流通の仕組み——

入手する方法=能美のSACHI まつり内で開催されるイベントのお手伝いをして受け取る、または、あんやと券を持っている人の個人的なお手伝いのお礼として受け取る。

利用する方法=受け取った券は有効期限内にイベント主催団体から提供される「あんやとの品」と交換される。「あんやとの品」はほとんとが現金で手に入れることができない非売品が多い。原則として地域団体から提供されるあんやとの品の数と地域団体へ発行するあんやと券の枚数は1対1となっており、あんやとの品が不足することはない。

発行主体であるあんやと券の会は、地域通貨を発行するだけではなく、各地域団体が募集しているお手伝いの情報やイベントの情報をウェブで発信し、これまで各地域団体が内輪で集めていたイベントのスタッフを地域内外から新たに集める活動をし、地域通貨を介して積極的に地域団体と潜在的なボランティアとをつないでいこうとする姿勢が、ござっせとは大きく異なる点である。

——あんやと券の流通結果——

3ヶ月の流通機関で、10の地域団体・組織からあんやと券の発行依頼があり延247枚の暗夜と券が発行された。あんやとの品は、発行依頼のあった地域団体・組織から13種類271個が提供され、各イベントの受付等で交換された。交換率は30%であった。

流通終了後の各イベントの関係者を集めた話し合いでは、「あんやと県によってお手伝いを頼みやすくなった」「あんやと券によって感謝の気持ちを伝えることができた」といった肯定的な意見が多数出された。券の表面に感謝のメッセージを記すことで一層感謝の気持ちを伝える工夫もなされていた。あんやと券の活動を通して互いに顔の見える関係がつくられ、それを契機に地域団体間での協働も生み出された。

——あんやと券の問題点——

お手伝いを依頼するイベント主催者によっては大きなメリットがあったが、その一方で受け取ったボランティア側にはこの券を有効活用できていたかという疑問が残る。何故ならば券を受け取った人の70%が未交換のまま有効期限を終えたからである。その理由として、交換できるチャンスが少ないということが挙げられる

——結論——

あんやと券の活動の魅力は、予算ゼロのもとで各イベントの関係者だけでなくイベントとは関係のない市内外の人たちも集まってたような地域団体・組織・個人の助け合いが実現できたことである。

またあんやと券の会の運営が、役職や義務を決めることなく、参加したい人が参加できるときに集まり、自分ができる範囲のことを楽しんで取り組むような緩いつながりで運営されている。このことが無理のない活動を支えていると思われる。ござっせは地域通貨の使用者と被使用者が与え合う関係とはなっていなかったが、あんやと券は両者が直接的に与え合うだけでなく、あんやと券に参加するすべての地域団体同士で間接的に与え合う関係となっているため、団体間で新たなコミュニティが創造されていると考えられる。

2016年4月からはお手伝いの対象を能美のSACHI まつりのイベントに限定せず、能美市内で開催されるあらゆるイベントを対象として、有効期限も7ヶ月に延ばして第2次流通が開始された。


以下、論文の本体です。

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Keyword: 地域通貨、共助行動、相互扶助、流通ネットワーク

1. 研究背景・目的 近年、地域活性化を目的とした住民主体のイベントが

全国各地で開催され、新たな地域資源の発掘や交流人口 の増加に寄与している。その一方で、増加するイベント 参加者に対応できるだけのスタッフが不足していたり、 予算が賄えなかったりという新たな問題が発生している。 地域の内外から新たにイベントの運営に協力してくれる ボランティアを集めることは、受け入れ体制や周知方法 の構築が伴うため実現することが難しい。こうした問題 を解決するための手段として古くから「地域通貨」と言 われる特定の地域のみで使えるお金が実践されてきた。

地域通貨は「コミュニティの手によって作られる、特 定の地域でしか流通しない、利子のつかないお金」であ ることから、地域通貨を使用する人々の間で、同じ地域 の中で相互に支え合う信頼と協同の関係を築くことがで きる(西部 2002)と言われている。とりわけ日本では参 加者間の相互扶助を媒介することで地域コミュニティの 活性化を志向するタイプの地域通貨が最も多く実践され (山﨑 2013)、地域経済の活性化を主とする世界の事例と 比較しても特異な状況となっている(Lietaer 2004)。

しかし、2000 年初頭から日本各地で導入されたコミュ ニティ志向型の地域通貨は、当初の目的を達成できない まま数年のうちに終了してしまう事例が少なくない。そ の主な理由として、地域通貨を運営する団体の資金や人 的資源の不足、流通スキームの不備等が挙げられる中、 地域における社会的・文化的背景を十分考慮せずに地域 通貨を導入していることも流通が停滞する要因のひとつ となっている(小林・吉田 2015)。

そこで本研究は、地域における社会的・文化的背景を 踏まえた形で持続的な共助行動を促進するための地域通 貨を実践するためにはどのようなことに配慮して設計・ 運営するべきかということを明らかにするために、まっ たく同じ地域で実践された 2 つの地域通貨の導入から終 了するまでの過程を比較しながら考察することとした。

2. 研究方法 地域における社会的・文化的背景をほぼ同質とするため、年月を越えて石川県能美市で実践されたコミュニティ志向型の地域通貨である「ござっせ」と「能美の SACHI あんやと券(以下、「あんやと券」)を分析対象とする。 ござっせは発行枚数も多く、積極的に広報活動を行った ものの、流通がうまくいかず共助行動を促進するには至 らなかった。対してあんやと券は、発行枚数が少ないに も関わらず、地域団体間の共助行動の促進に寄与してい る。本研究では、まずござっせに関わる過去の文献と先 行研究の調査、当時の関係者へのヒアリングからござっ せの設計と流通の問題点を明らかにする。そして、あん やと券がこれらの問題に対してどのように対処して成果 を上げたのかについて、運営の話し合いにおける観察と 回収された地域通貨のシリアルナンバーから実際の流通 経路を追うことで明らかにする。

3. 地域通貨ござっせ 1

「ござっせ 」は 2005~2007 年に石川県能美市内で試行 流通した地域通貨の名称である。発行者は NPO 法人ござ っせ倶楽部であったが、地域通貨の試行は全国都市再生 モデル調査の一環として位置づけられ、実質的には官民 協働の事業であった。ござっせの発行目的は、地域づく り活動(ボランティア活動)、及び地域経済の活性化を図 ることであり、このように 2 つの目的を同時に達成しよ うとする地域通貨は、全国的にも地域経済の活性化のみ を目的とするものより多く実践されていた(山﨑 2013)。

流通単位は「こざっせ」で 1 ござっせ=1 円として扱 われ、能美市内の 56 の協賛店舗(市内の全商店数 612 店の 9.2%)での支払いの一部として利用できる他 、市内を走るコミュニティバスの乗車賃として支払うこともでき た。ござっせはを円に換金することができず、それは地 域通貨を受け取った協賛店舗も同じであった。

ござっせの主な入手方法は、発行主体である NPO 法人 が認めた地域づくり活動(イベントのボランティア、ワ ークショップへの出席等)に参加することで 300 ござっ せを受け取ることができ、個人間のサービスのやり取り でもござっせを使用することが可能であった。ござっせ( 加賀地方の方言で「いらっしゃい」の意味)が流通した 1 年半で総額 2,668,800 ござっせが発行される に至ったが(表 1)、実際に協賛店舗で使用されたござっせ(協賛店ごとに設定した割引率相当分を地域通貨で支払 い、残額を現金で支払うという方式。)は発行数の 8.3%に留まり、90%以上は未使用のままで 期限切れとなった(金沢河川国道事務所 2006)。

同報告書によると、ござっせが流通しなかった理由と して、ござっせを利用してできるサービスメニューの不 足や利用方法のわかりにくさを挙げている。しかし、我々 はこれらの理由以外にも流通を妨げる構造的な問題が存 在していたと考えている。

ござっせは地域活動に取り組む地域団体からの要請を 受けて発行主体であるNPO法人が当該団体に地域通貨を 無償で譲渡するという形態であったが、周知不足もあっ てか地域団体からの発行要請はほとんど無かった。しか し、事業として地域通貨を発行しなければならなかった ため、流通期間の中期以降は NPO 法人が地域団体へ地域 通貨を配り歩く状態となってしまったという。無償ボラ ンティアで活動できている団体にとっては、地域通貨を 介した新たな共助関係をそもそも構築する必要がなかっ たと言える。湖中(2005)は、既存の慣習や類似の制度 が原因となって、導入された地域通貨が否定的に認識さ れてしまうことを指摘しており、ござっせも同種の認識 によってその普及が妨げられてしまったと考えられる。

また、協賛店舗は受け取った地域通貨を代金の一部で はなく、換金ができない割引券として引き受けていたた め、地域通貨を受け取るほど代金の割引をすることにな り損をする仕組みとなっていた。利用者の立場からも協 賛店舗によって割引率が異なっていたり、割引率が低か ったりと、利用方法の煩雑さや魅力の低さから地域通貨 の利用が敬遠されたと考えられる。つまり、協賛店舗と 利用者の双方とも地域通貨に関与する誘因が小さかった と言える。

こうした考察からござっせが流通しなかった原因とし て、1)そもそも需要のない状況で地域通貨が大量に供給 されたこと、2)地域通貨を受け取るボランティアと地域 通貨を受け入れるお店のそれぞれにとってメリットが少

なく、両者が「お互い様」の関係になりにくい構造であ ったこと、の 2 つが挙げられる。

ござっせは、2007 年に補助金が終了したのち、新しい 運営体制を整えることができなかったため、1 年半の試行 期間をもって終了することとなった。当時の事務局担当 者へのヒアリングから、NPO 法人の中で実質的に動いて いる人が数名であったため、事業規模が運営主体である NPO 法人の身の丈にあっていなかったのも地域通貨を継 続できなかった理由であるという。補助金のカットや運 営を担うボランティアの減少によって地域通貨の発行団 体が十分に機能しなくなることは(坂田 2003; 西部 2006)、他の地域通貨でも頻繁に見られた事例である。

4. 能美のSACHIあんやと券 

  4.1. 発行目的と立ち上げ

「能美の SACHI あんやと券」は、毎年 9 月から 11 月 にかけて能美市内で開催される複数のイベントの総称で ある「能美の SACHI まつり」で使用できる地域通貨であ る。もともとは既存の経済システムとは異なる価値観を 表現する手段として能美市内に新たな地域通貨を導入し ようと有志が始めた活動であった。その活動の方向性を 決める中で、地域団体・組織が主催するイベントのスタ ッフが足りないという問題を知り、同まつりの助け合い を促進するための地域通貨として 2015 年 9 月~11 月まで の 3 ヶ月間流通された。

地域通貨の発行は、任意団体である「能美の SACHI あ んやと券の会」が担い、主に地域団体・組織の関係者が 会のメンバーとして参加しているが、会における役職や 予算(会費)は一切なく、手伝える人が手伝えるときに 月 1 回集まる形で運営が行われている。地域通貨を発行 するにあたって、先述した「ござっせ」だけではなく、 日本で実践された地域通貨の事例を調べ、地域通貨を運 営する上での問題点を整理し、これらを解決するための 新たな流通の仕組みを構築した。

 4.2. 流通の仕組み

あんやと券を入手する方法は、能美の SACHI まつり内 で開催されるイベントのお手伝いをして受け取るか、も しくはあんやと券を持っている人の個人的なお手伝いの お礼として受け取るかの 2 つである。受け取ったあんや と券は、有効期限内であれば「あんやとの品」と呼ばれ るお礼の品と交換することができる。あんやとの品は、 イベントを開催する地域団体や組織から提供され、多くの品が現金で購入することができない非売品となってい る。イベントでお手伝いを募集する地域団体は、あんや との品を提供することと引き換えに、あんやと券を受け 取ることができ、受け取ったあんやと券は当該団体が開 催するイベントを手伝ってくれた人へ渡ることとなる。 原則として地域団体から提供されるあんやとの品の数と 地域団体へ発行するあんやと券の枚数は 1 対 1 としてい るため、有効期間中にあんやとの品が不足するという心 配はない。あんやとの品は市内で開催されているイベン トの受付等で交換することでき、自分がお手伝いをした イベント以外でも交換することができる。つまり、ある 地域団体が提供したあんやとの品は、その地域団体が主 催するイベントをお手伝いした人だけに渡るのではなく、 別の地域団体が主催するイベントをお手伝いした人にも 渡る可能性がある。これは自分がお手伝いしていない別 のイベントにも足を運んでもらうための工夫である。

発行主体であるあんやと券の会は、地域通貨を発行す るだけではなく、各地域団体が募集しているお手伝いの 情報やイベントの情報をウェブで発信し、これまで各地 域団体が内輪で集めていたイベントのスタッフを地域内 外から新たに集める活動をしている。地域通貨を介して 積極的に地域団体と潜在的なボランティアとを繋いでい こうとする姿勢は、ござっせとは異なる点である。

4.3. 流通結果

3 ヶ月間の流通期間において 10 の地域団体・組織から あんやと券の発行依頼があり、イベントのお手伝いのお 礼として延べ 247 枚のあんやと券が渡された。あんやと の品は、発行依頼のあった地域団体・組織から 13 種類 271 個が提供され、各イベントの受付等であんやと券と交換 された。あんやとの品と交換されたあんやと券は 81 枚で 交換率は 30%であった。回収されたあんやと券のシリア ルナンバーをもとに流通経路を可視化したネットワーク が図 1 である。

あんやと券を引き受けた地域団体・組織をノードとし、 ノード間のあんやと券の流通をリンクとする(矢印が方 向)ネットワークを表したものである。ノードの大きさ と数字は各団体・組織がイベントのお手伝いのお礼とし て渡したあんやと券の枚数を表し、矢印とその数字は各 ノードで発行されたあんやと券がどのノードでいくつの あんやとの品と交換されたかを表している。自己遷移ル ープは、あるイベントをお手伝いして受け取ったあんや と券を同じイベントであんやとの品と交換したことを表している。個人間の流通に関しては記録できないため、 このネットワークには含まれていない。

図 1 を見ると、あんやとの品の交換ルートとして各ノードからの自己遷移ループが多いことがわかる。これは自分がお手伝いをしたイベント内であんやとの品を受け取っていること、そして自分がお手伝いしていないイベントで交換していないことを意味する。お手伝いをしたイベントとは別のイベントであんやとの品と交換されたのは 26 枚で、交換された全体の 32%であった。最も外部から交換されたイベントは、能美の SACHI まつりの関係者を集めた「打ち上げ」で、これが日程の中ですべてのイベントの最後であったことと、各地域団体のメンバー間であんやと券を通じた助け合いがあったことがその理由と考えられる。逆に 1 枚も交換されたかったのが「JAIST フェスティバル」のお手伝いのお礼として渡された 50 枚で、この結果はそのうちの 35 枚が日本語の不得手な留学生に渡ったこと とその他にも能美市外の居住 者に渡されたことが原因と考えられる。流通終了後に各イベントの関係者を集めた話し合いで は、「あんやと券によってお手伝いを頼みやすくなった」 「あんやと券によって感謝の気持ちを伝えることができ た」といった肯定的な意見が多数出された。あんやと券 を渡す側の使い方としても単に券を渡すだけではなく、 券の表面に感謝のメッセージを記すことで一層の感謝の 気持ちを伝えるという工夫がなされていた。また、通常 では横の繋がりがなかった地域団体・組織において、あ んやと券の活動を通して互いに顔の見える関係がつくら れ、それを契機に地域団体間での協働も生み出された。

5. 考察

このようにあんやと券を用いてお手伝いを依頼するイ ベント主催者にとっては大きなメリットが得られたが、 その一方であんやと券を受け取ったボランティア側がこ の券を有効活用できていたかというと疑問が残る。なぜ なら、あんやと券を受け取った人の 70%が未交換のまま 有効期限を終えたからである。交換率の低さという点に おいては、あんやと券もござっせと同じ問題を抱えてい る。あんやと券はござっせのように店舗で使用できるタ イプの地域通貨ではなく、有効期限中に開催されている イベントでのみ交換することができるため、交換するた めの機会がそもそも少ない。また、発行がイベントの開 催と連動しているため、お手伝いするイベントの開催時 期が有効期限に近いほど、交換できる機会が少なくなっ てしまう。実際に能美の SACHI まつりの中盤に大型発行 が相次ぎ、その場合は交換するためのイベントが数回し かなかった。この問題を解決するためには外部から最も あんやと券の交換があった「打ち上げ」のようにあんや と券を持っている人たちが集まれる場所を作ることが必 要となる。今回は関係者のみが集まる会であったが、あ んやと券を持っていることで参加できるような会が開催 されればより多くのあんやと券が集まると同時に、関係 者と非関係者があんやと券を通じて交流することができ る場所を創出することができるであろう。

この先、あんやとの品の交換率を上げることも重要で あるが、あんやと券の活動の魅力は、予算ゼロの下で各 イベントの関係者だけでなくイベントとは関係のない市 内外の人たちも集まって多様な地域団体・組織・個人の 助け合いを実現できていることである。あんやと券の会 としての役職や義務を決めることなく、参加したい人が 参加できるときに集まり、自分ができる範囲のことを楽 しんで取り組む。こうした緩いつながりで発行主体が運 営されているからこそ、各団体・組織の関係者も自分た ちがメインとする活動を疎かにすることなく、手の空い た時間で運営に協力することできている。会が始まった 当初に団体間で確認された「持ちつ持たれつの関係を作 ろう」という方針があんやと券の活動を通じて形成され つつあると言える。岡田(2008)は、地域通貨を引き合 いに、与え合うことで関係を構築する「贈与経済」がコ ミュニティ創造の源であると述べている。ござっせは地 域通貨の使用者と非使用者が与え合う関係とはなってい なかったが、あんやと券は両者が直接的に与え合うだけ ではなく、あんやと券に参加するすべての地域団体同士

で間接的に与え合う関係となっている。ゆえに、団体間 で新たなコミュニティが創造されていると考えられる。

6. 今後の展開
2016 年 4 月からはお手伝いの対象を能美の SACHI まつ

りのイベントに限定せず、能美市内で開催されるあらゆ るイベントを対象とし、有効期限も 7 ヶ月に延ばして第 2 次流通が開始された。券の裏面には新たにお礼のメッセ ージを書く欄を設け、感謝を伝えるメディアとしての機 能が充実された。今回のネットワーク分析の結果と考察 は、各団体の関係者にフィードバックされたこともあり、 あんやと券の流通と交換の促進を中心に改善が進められ ている。第 2 次流通においても流通ネットワークを追う ことにより、第 1 次流通からの改善点が流通にどのよう な影響をもたらしたのか明らかにしていく予定である。

謝辞

本研究は、科研費(JP25750122)を受けて実施された ものである。ここに記して謝意を表す。また、本研究の 調査にあたり、ご協力頂いた「能美のあんやと券の会」 の皆さまに心よりお礼を申し上げます。

引用・参考文献

小林重人・吉田昌幸, 2015,「地域通貨の流通デザインにお ける知見の統合手法としてのゲーミングとシミュレ ーション」,『進化経済学論集』, 19.

国土交通省北陸地方整備局金沢河川国道事務所, 2006「, 新 市連携による九谷焼の里再生調査 要約版報告書」.

湖中真哉, 2005,「地域通貨はなぜ使われないか:静岡県清 水駅前銀座商店街の事例」,『国際関係・比較文化研究』, 3(2), 33-58.

Lietaer, B., 2004, Complementary Currencies in Japan Today: History, Originality and Relevance, International Journal for Community Currency Research, 8.

西部 忠, 2002,『地域通貨を知ろう』, 岩波書店.
西部 忠, 2006,「地域通貨の政策思想」,『進化経済学論集』,
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岡田真美子, 2008,「地域再生とネットワーク」, 昭和堂.

 坂田裕輔, 2003「, 持続可能な開発を支援するための地域通貨システムのデザイン」『, 同志社大学ワールドワイドビジネスレビュー』, 4(3), 161-177.

山﨑 茂, 2013,『地域再生の手段としての地域通貨』, 大阪公立大学共同出版会.