『実践 自治体財政の経済分析』(連載9)

今回はテキストの「第9章 財政診断の基礎的指標」を学びます。

学習のポイント:実際の市町村の財政分析を行うためのポイントを学ぶ。利用する資料は「決算状況調書(決算カード)」です。「財政状況資料集」を判読した後、決算カードに挑戦します。以下では、実際の例として美浦村の決算カードを使用します。

1 財政診断のための指標

 Ⅰ 実質収支比率を中心とした財政収支を見る指数

財政収支を見る指数で最も大事なものは実質収支比率です。この比率が3〜5%の黒字であれば財政運営は適正とされています。民間企業と異なるのは、この数字を最大化することではありません。すなわち地方公共団体は利潤を追求しているのではなく、市民の厚生を最大化しているのです。

形式収支=歳入総額−歳出総額

実質収支=形式収支−翌年度へ繰り越すべき財源(継続費、繰越明許費、債務負担行為、事故繰越)

単年度収支=実質収支−前年度の実質収支

実質単年度収支=単年度収支+基金積立額−基金取崩額+地方債繰上償還額

実質収支比率=(実質収支/標準財政規模)×100(企業とは異なり、収入と支出の差を最大化するわけではないことに注意。3〜5%の黒字であれば財政運営は適正とされる)

(参考)

標準財政規模=普通交付税+地方税収×100/75+地方譲与税(財政運営が均衡しているかどうかを見る指標)

(標準財政規模に関しては、さらに細かい算定式があります。上記のリンクを参考にしてください。)

美浦村の場合

平成21年度 6.2

平成22年度 4.9

平成23年度 5.8

平成24年度 4.1

平成25年度 2.5

平成26年度 4.2

平成27年度 7.3

となっています。ほぼほぼ財政運営は適正で、財源は村民のために有効に使われていると言えるでしょう。

 Ⅱ 財政力指数

財政力指数=基準財政収入額/基準財政需要額(過去3年間の平均)

財政力の強弱を見る指数のことで、普通地方交付税の交付(1未満)・不交付(1以上)の基準となる数値で、重要ではあるが、地方公共団体にとってはそれ以上のものではない。

 Ⅲ 経常収支比率

経常収支比率=(経常的経費充当一般財源/経常一般財源)×100

 財政が弾力的であるかどうかを見る指数であり、市民はこの比率に注目しておく必要がある。長期にわたってこの比率が100%近くになると、地方団体の財政は確実に悪化していく。その理由はたいていの場合、高い給与水準、高い公債費比率、緊急性のない公共事業の実施などである。経常収支比率が高ければ高いほど、支出の中で義務的経費比率が高くなっており、首長は、裁量の余地のある自由度の高い予算を組むことができなくなる。これは首長が市民の要求に応えにくくなることを示しており、市民にとって不幸なことになる。

美浦村の場合(減収補てん債、臨時財政対策債を除く)

平成21年度 99.1

平成22年度 96.7

平成23年度 100.7

平成24年度 105.7

平成25年度 100.1

平成26年度 109.1

平成27年度 98.8

となっています。この数値が100%に近いということは、経常的な収入で経常的な支出を賄えない状態にあるということであり、預貯金を取り崩すか、借金をしてかろうじて財政を支えているという状況です。財政の悪化は確実であると指標上は指し示しています。給与水準、公債費比率等を抜本的に見直す必要があるでしょう。村長の財政運営に対する自由度はほとんどなく、硬直的な財政運営を迫られている状況にあります。

 Ⅳ 公債費比率、公債費負担比率

公債費比率は、財政構造の弾力性を判断する指標であり、公債費に充てられる一般財源の額の標準財政規模に占める割合を表す比率です。この比率が10%を越さないことが望ましいとされています。

公債費比率=(当該年度元利償還金−元利償還金充当特定財源−災害復旧等に係る基準財政需要額算入公債費)/(標準財政規模−災害復旧等に係る基準財政需要額算入公債費)×100

公債費負担比率は、一般財源のうちどれだけを公債費に充てたかを表すもので、公債費には繰上償還や一時借入金利子に係るものも含まれます。

15%:警戒ライン、20%:危険ラインと言われています。

公債費負担比率=(公債費充当一般財源/一般財源総額)×100

美浦村の場合

平成21年度 8.5

平成22年度 7.0

平成23年度 8.2

平成24年度 8.6

平成25年度 8.7

平成26年度 9.8

平成27年度 9.7

となっています。

 Ⅴ 実質公債費比率、起債制限比率

 平成18年度から地方債許可制度が協議制度に移行したことに伴い、従来の公債費比率や起債制限比率に代わり、実質公債費比率が新しい地方債許可方針に規定されています。実質公債費比率は次の算式により求められます。

実質公債費比率=

((〈公債費等に充当した一般財源+公営企業債等の償還財源に充てた繰出金〉−普通交付税措置のある公債費等)/(標準財政規模+臨時財政対策債発行可能額−普通交付税措置のある公債費等))×100

非常に単純化して言えば、「借金返済額の収入額に対する割合」ということで、わかりやすい数字にするために、ちょっと現実的な数字ではありませんが、毎月10万円のローンを組んでいる家庭の収入が100万円であれば、

10/100=10(%)ということになります。もちろん、この数値は低ければ低いほど、家計の自由度は上がることになります。

ただし、この実質公債費比率にはちょっとした数字のマジックがあって、この借金の返済を誰かが応援してくれれば、比率が下がるようになっています。つまり、親が借金の一部を肩代わりしてくれるなんていう場合、この比率は下がります。例えば、毎月10万円のローン返済があるとして、そのうち5万円は親が出してくれるよなんていう場合は

(10ー5)/(100ー5)=5.3(%)になります。この親の応援を「臨時財政対策債」と言います。ところで、これはなんか変ですよね。純粋に借金返済の応援をしてくれるのであれば、

(10−5)/100=5(%)になるのに、分母からも5を引いている、ということは、結局収入も5万円減っている。つまり、応援してもらっていると思っていたものが、実は収入から天引きされていた、ということになるのです。それでも、比率は下がる。これが、マジックの正体です。

借金返済を応援してもらっていると思わせて、実は自分が払っている。振り込め詐欺より、実に巧妙な手口です。しかも、法律化されて、白昼堂々とこの詐欺が実行されているのです。この例では「応援してくれている」人を、「親」と仮定しました。しかし、これが実はローン会社だとしたらどうでしょう。毎月10万円の返済は苦しいから、毎月5万円にしてくれとローン会社に頼んだとしましょう。ローン会社は「快く」引き受けてくれました。「それでは、毎月10万円を5万円にしましょう」。

いや〜、助かるなあ〜、なんて思ってはいけません。毎月のローン返済額は10万円から5万円に下がりましたが、実は、給料からその5万円分はローン会社に天引きされていただけなのです。

実質公債費比率の算定式の中の「普通交付税措置のある公債費等」というのが、このローン会社のありがたい「応援金」の正体なのです。ですから、利子だけは相変わらず重い負担となって、背負わされているのです。その証拠に、累積債務残高は増え続けています。それが、現実なのです。

こうした、数字のマジックを頭に入れておいて、美浦村の場合を見てみましょう。

平成20年度 9.5

平成21年度 9.1

平成22年度 9.3

平成23年度 8.9

平成24年度 8.7

平成25年度 7.6

平成26年度 5.7

平成27年度 4.5

平成28年度 4.2

となっています。平成20年度の9.5から、年々この比率は下がってきています。それは、比率の分子、つまり借金返済額が減っていることを表しているのではありません。比率の分子と分母の両方から控除される「普通交付税措置のある公債費等」の額が増えているということの結果なのです。もっと恐ろしいのは、この「支援金」と思い込んでいるものが、実は「借金」によって成り立っているのです。

「親」は言います。「借金の返済を助けてやろう。金は返さなくてもいい。」と言います。しかし、その親もローン地獄にはまっているのです。もうこの先は、言いたくありません。

しかし、あえて言いましょう。このローン地獄の元凶である「借金」は、誰かが汗水垂らして稼いで貯めたお金ではありません。国が国の信用に基づいて「無から生み出した」ものなのです。つまり「国債」です。その国債を民間銀行が一般の預金者の要求払預金で買い、中央銀行の金融政策に基づいて「無から発行した」お金(コンピュータの中にあるデジタル化された数字)で、その国債を買い取った、まさに空想上のお金なのです。

しかし、その結果生み出される利子だけは空想上のものではありません。実際に市民が稼いで支払った税金で返済されているのです。

 Ⅵ 公営事業への繰出し

公営事業に対して地方公共団体の一般会計から支出される経費のことで、公営事業等への繰出と呼ばれています。公営企業は独立採算制が原則となっていますが、公益上、企業に負担させることが適当でない経費については、地方公共団体が公費で負担することができます。

美浦村の場合

平成22年度 6億9千2百万円

平成23年度 8億1千万円

平成24年度 8億5千8百万円

平成25年度 9億5千2百万円

平成26年度 8億9百万円

平成27年度 8億3千8百万円

となっています。毎年度合わせて7億円から9億円が公共下水道事業特別会計や国民健康保険特別会計等へ繰り出されています。

 Ⅶ 諸収入の大きさは?

他の収入科目に含まれない収入のことであり、延滞金、預金利子、受託事業収入、雑入などが含まれる。諸収入が普通会計の規模に比較して大きすぎると何かの問題が必ず隠されている。一度は必ずチェックする必要がある。

以下の指標は普通会計決算状況調書から計算しなければならない。

2 普通会計決算状況調書から読み取ることができない財政診断の指標

 Ⅰ 歳入構造を見る指数

・自主財源比率

美浦村の状況

平成13年:75.1%

平成14年:69.1%

平成15年:70.1%

平成16年:65.8%

平成17年:71.9%

平成18年:72.0%

平成19年:67.7%

平成20年:64.5%

平成21年:65.1%

平成22年:56.5%

平成23年:55.5%

平成24年:56.3%

平成25年:55.6%

平成26年:61.6%

平成27年:48.1%

となっています。平成20年(2008)以降の自主財源比率の落ち込みが大変気になるところです。逆に言えば、依存財源の比率が徐々に高まり平成27年度では50%を割り込んでいます。それは財政運営が国や県の意思決定に左右されるということを意味しています。これは財政運営の問題にとどまらず、地方分権の危機とも言えるのではないでしょうか。

・一般財源比率

一般財源は、使途が特定されず、どの経費にも自由に充当できる収入で、地方税、地方譲与税、地方交付税、利子割交付金、配当割交付金、株式登場と取得割交付金、地方消費税交付金、特別地方消費税交付金、ゴルフ場利用税交付金、自動車取得税交付金および地方特例交付金をいいます。特に、地方交付税および地方交付金をもって一般財源を代表させることが多い。歳入総額に対するこの一般財源の割合を一般財源比率と言います。この割合が大きいほど行政需要に円滑に対応することが可能となります。

 Ⅱ 歳出構造を見る指数

・消費的経費比率——支出効果が単年度または短期間に終わるもの

・投資的経費比率——支出の効果が長期にわたる経費

・義務的経費比率——任意に接舷できない硬直性の高い経費

・任意的経費比率——任意に支出できる経費。

3 長期的視点

さらに10年を超えるような長期的視点で財政分析を行う必要もある。その際に役立つのは次の6つの項目である。

⑴ 地方債残高

過去に発行した地方債の「累積額」をいう。

⑵ 地方債現在高比率

地方債残高比率は、「地方債残高」を「標準財政規模」で割ったものである。

地方債残高比率=地方債残高/標準財政規模

下の図は美浦村における平成22年度から平成27年度にかけての「地方債現在高比率」を表したものです。平成22年度で251%、平成27年度では330%となっています。これがどのような意味を持っているのかは、この節の最後に「財政指標」の一覧表(宮城県のホームページから引用)を掲載してありますが、平成22年度の段階で既に警戒エリア、平成26年度以降では300%以上の危険エリアに入ってきています。これは借金に係る指標ですので、現在の財政規模に対して、これ以上借金を増やすことは「危険」であることを指し示していることになります。

⑶ 積立金現在高

財政調整基金、減債基金、特定目的基金の合計をいい、積立金残高とも言います。積立金残高比率は、「積立金残高」を「標準財政規模」で割ったものです。

積立金残高比率=(積立金残高/標準財政規模)×100

下の図は美浦村における財政調整基金及び減債基金等の積立金残高比率を表したものです。積立金残高は平成23年度をピークに一貫して下降を続けています。平成29年度現在、残高は1億2千3百万円弱になっています。次年度以降は、積立金から一般会計等への繰入はほぼ期待できない状態です。この指標も「準警戒エリア」、「警戒エリア」で推移していましたが、今や「危険エリア」に入ってしまっています。

⑷ 実質債務残高比率

償還すべき地方債の現在高と、債務負担行為により支出すべき実質的な債務額(履行すべき額が確定している支出予定額)の、標準財政規模に対する割合です。

実質債務残高比率=

((地方債現在高+債務負担行為支出予定額)/標準財政規模)×100

((6,830,656+3,985 +943,366)/4,126,925)×100=188.5%

(ただし、実質債務は一般会計のみで計算した。連結ベースで計算すると、数値は2倍以上に膨れ上がる。)

⑸ 将来にわたる実質的な財政負担比率

これは実質債務残高比率の分子から積立金現在高を差し引いたものであるが、現在(平成29年度)積立金残高は1億2千万円程度にまで落ち込んでしまったので、この比率計算は省略する。

⑹ 財務書類4表

(省略)

以上の指標の判断基準

4 まとめ 

 Ⅰ 費用最小化ではない

地方公共団体の財政運営についての最重要点は、「費用最小化」ではないということです。つまり、地方公共団体の財政運営に、市場原理主義や過度の自由主義を無原則に持ち込んではならないということです。もちろん採算性や効率性を度外視して、大盤振る舞いをして良いということではありません。しかし、地方公共団体には「利潤最大化」とは違う目的がある、という視点を忘れてはならない、という意味なのです。

地方公共団体の財政運営、地方公共団体の経済行動の最終目的は地元住民の幸福の増大です。採算性、効率性、費用最小化とは、あくまでもそのための手段にすぎません。もしそれらが、地元住民の幸福の増大に矛盾するのであれば、いつでもこれを捨て去る覚悟が首長には必要です。目的と手段を取り違えてはいけないということです。

闇雲に企業の経済原理である「規模の経済性」を追求した「平成の大合併」は、その最たる例でしょう。経世済民の観点から、この大合併に断固としてNOを突きつけた矢祭町の町長の決断は、こうした経済原理に基づく合併に、「町民第一」の立場からなされたものでした。地方には地方独自の事情、文化、習慣があり、一律に経済性のみを追求することで住民の幸福を増大することはできません。安易に公共施設の維持管理を民間委託するといった発想では、住民の幸福の増大、地方の自治・独立性を達成することはできないのです。

 Ⅱ 長期的視点

地方公共団体の財政運営について次に重要な点は、超長期的視点が求められているということです。企業のライフサイクルは30年、20年とどんどん短くなっています。それは、企業の生殺与奪の権は利潤さえ上がれば良いという、資本家の手に握られているからです。地方公共団体の生命はそのような資本の論理によって弄ばれて良いような性質のものではありません。それは地方公共団体という組織が、住民の生活の大切の基盤となっているからです。人がそこで生まれ、そしてたとえその地方の外に出て活動していたとしても、必ず「ふるさと」として人々の心にいつまでも生きているものでなくてはならないからです。「ふるさと」は、快適に生活でき、いつでも安心して戻ってこられる、人々の心の拠り所となるものです。

このような視点から、常に住民の意思に基づいた、快適なふるさとづくりを目指す、長期的視点に立った財政運営がトップに求められているのです。

 Ⅲ 範囲の経済性

地方公共団体の財政運営についてその次に重要な点は、地方公共団体は多品種少量サービスを供給する機関であるということです。当然ながら、地方公共団体は民間企業と違って、利益第一主義で運営されるものではありません。住民の幸福の最大化を目指して、様々なサービスを、様々な要望に従って供給する必要があります。これは、企業活動では、効率性の観点からすると、なかなかできないことです。しかし地方公共団体には、こうした経済原理に反するようなことが要求されているのです。したがって、地方公共団体の運営は、こうした不経済なサービスの提供に対して、いかに対処していくのかということがカギとなってきます。

地方組織の運営は、こうした経済的に不利な活動を、財政上の負担をいかに軽減しながら達成するか、このような工夫が常に求められているのです。場合によっては、地域住民が主体となって、住民自身のための活動を自主的に行うことで解決できることもあるかもしれません。しかし、それは、住民が地方組織と別個に行うのではなく、地方団体と常に協力して、お互いが一つの目標に向かって努力していかなければ、達成は難しいでしょう。住民が主体的に行動を起こし、そして地方公共団体はその活動をサポートする、このようなに共に協力しあって「ふるさと」を創造していくことが、経済原理を超えた目的の達成に大きく寄与していくのです。

 Ⅳ 垂直統合の経済性

 Ⅴ 成熟度

 地方自治の基本は、その地域に暮らす住民の「地域のためにつくしたい」、「地域のために役に立ちたい」という、住民のその土地に対する愛着にあります。その愛着は、その土地に自らの汗を染み込ませることによって生まれます。農民のその土地に対する愛着は、その土地を耕すことから始まります。それは、その土地の隅々まで目を配ることであり、土の一片一片の状態を知ることによります。

 このことは、土を耕す農民に限らず、そうでない人も、その土地、その土地の住民相互に関わることによって生まれてくるのです。その土地の自然とのコミュニケーション、隣人とのコミュニケーションが、さらに言えば自分の心とのコミュニケーションが、「ふるさと」への自然な愛を生み出すのです。言い換えれば、その地で暮らし、心を耕すことによって、郷土愛は生まれてくるのです。

 こうした前提に立って、首長をはじめとして、地方公共団体の財政運営に関わる全ての人々が地域住民の意思をくみ取り、集め、政策に生かし、これを財政面で裏付ける、そのことが、地方公共団体の財政運営に求められる基本ではないでしょうか。

 以上で「実践 自治体財政の経済分析」は終わりです。

次に、わが美浦村の過去・現在の財政状況と、未来の財政運営のあり方についての「まとめ」をしてみたいと思います。

ご精読ありがとうございました。