シカゴプラン(貨幣改革)とは何か(連載14)

第14回目は、「公共貨幣システムのデザイン」を学んでいきます。

教科書はNPO法人日本未来研究センター理事長山口薫さんの著作

『公共貨幣』「第9章 公共貨幣システムの誕生」です。

9・1 システムデザイン

 9・1・1 米国貨幣法モデリング3部作

リーマンショック後の欧米諸国は政府債務危機に襲われていた。それをシステムダイナミック的に解決するために、前章で述べたようにシステムのレバレッジ・ポイントを探し始め、そこで米国貨幣法に出会った。米国貨幣研究所のステファン・ザーレンガは2002年に『失われた貨幣の科学』という大著の中で、シカゴプランをもう一度蘇らせて米国の経済を再生させるために、シカゴプランを「米国貨幣法」と装いを新たにして提案していた。

債務貨幣システムを変革するレバレッジ・ポイントだと直感した米国貨幣法の貨幣改革3条件は、簡単に表現し直すと次のようになる。

① 民間会社である連邦準備制度理事会(FRB)−米国中央銀行−を財務省に統合し、政府のみ貨幣を発行する。

② 無からお金を創り出す民間銀行の信用創造を禁止し、100%準備とする。

③ 経済成長に必要な貨幣は、政府が常時流通に投入する。

貨幣システム研究のもっぱらの関心は、この貨幣改革3条件が満たされれば、リーマンショック後の欧米諸国が直面している政府債務危機が救えるのかということであった。すでに考察してきたように、フィッシャーのシカゴプラン(貨幣改革のためのプログラム、1939年)では、債務貨幣システム(部分準備銀行制度)は必然的に次の2つの経済的弊害をもたらすと分析していた。

・部分準備銀行制度は好況や不況をもたらす要因となっている[主要弊害]

・部分準備銀行制度のもとで経済成長に必要な流通貨幣量を供給するということは、政府が国債による債務を継続的に増大させるということである[副次的弊害]

当時のシカゴプランの提唱者の関心事は、もっぱら如何にして世界大恐慌の不況から抜け出せるか、それを回避できるかということであり、主要弊害の克服が政策提言の中心であった。

リーマンショックによる第二次世界大恐慌後は、政府債務危機が主要経済問題となりこの債務貨幣システム研究の関心事も、もっぱらいかにして政府債務危機を克服できるかにあった。

そこでこの貨幣改革3条件を導入すれば、政府債務の増大という副次的弊害が克服されるという作業仮説を立て、まず最初にシミュレーション分析でその検証をすることにした。

その手始めとして、海外との取引のない比較的簡単な閉鎖マクロ経済モデルを用いて分析した。毛一家は驚くべきもので、貨幣改革3条件を用いてば、インフレを引き起こすこともなく政府債務が完済できるというものであった。さらにデフレ不況でGDPギャップが生じても、貨幣政策で容易に克服できるという結果も得た。

その後このシミュレーション分析を、海外との取引があるオープン・マクロ経済モデルに拡張していった。そして、増税なしでも不況、失業、インフレ、そして海外での同時(感染)不況も引き起こさずに政府債務は完済できるという、これまた驚きのシミュレーション結果を得た。

フィッシャーらが貨幣改革プログラムで提案した政府債務の増大という副次的弊害が、公共貨幣システム(100%準備のシカゴプラン)で克服できることをシミュレーション分析で確認することができた。そこで残ったのが、大恐慌や不況の発生という主要弊害も同様に克服できるかという検証作業であったが、2011年9月にシカゴから帰国後、早速このこのシミュレーションに着手した。そのためにこれまでのモデルを簡素化したモデルを新たに構築して、不況や金融の安定化問題をシミュレーション分析した。そして、信用拡大・収縮による「好況と不況」の景気変動も同時に制御できるという結果を得た。さらに、所得格差も減少できるという副次的効果も得られた。

フィッシャーらが分析し提案した内容、すなわち債務貨幣システムが引き起こす好況と不況(主要弊害)と債務の増大(副次的弊害)の2つの弊害が貨幣改革プログラムで克服できるということが、会計SD経済モデリングによる3部作(「債務から自由な貨幣システムの下での政府債務の完済について−米国貨幣法のモデリング」、「オープン・マクロ経済に於ける公共貨幣システムの作動について−米国貨幣法の完成モデリング」、「公共貨幣システムの下での貨幣と金融の安定性について−米国貨幣法の簡略モデリング」)で初めてシミュレーション検証された。この3部作によって、公共貨幣システムの基礎となるシステムデザインが完成した。

 9・1・2 「公共貨幣」の概念

なぜ「公共」貨幣というような新しい概念を使うようになったのか、その理由をここで簡単に述べておきたい。そして今後は読者の皆さんにも「公共貨幣だ」と自信を持って使用していただければと念願している。

まず、債務貨幣(debt money)という用語であるが、これは利付き貨幣(money at interest)ともいわれる。意味するところは、現在の貨幣システムでは誰かが借金をしないとマネーストックが増加せず、しかも借金には必ず金利が付いて回るということである。この対立概念として、債務から自由な貨幣(debt-free money)や利子無し貨幣(interest-free money)という用語がよく使用される。さらに、もっと積極的にgovernment money,government-issued money,treasury-issued money,sovereign money,national money,satate moneyといった表現を用いる貨幣改革論社もいる。これらは一々日本語に訳してもその違いが表現しにくいが、要するに貨幣を発行する主体が民間の中央銀行ではなく、政府や国家であるということを強調する表現である。

これらを一般的な表現として「政府貨幣」と日本語に訳せないこともないが、そうすれば第2章で定義された政府貨幣(鋳貨、コイン)と混同される。さらに国内の「政府貨幣」発行論者の主張とも混同される危惧が出てくる。彼らの主張は、現行の日銀券にプラスして政府(財務省)も貨幣を発行するべきであるというもので、そこには日本銀行を解散して政府の組織に衣替えするというシカゴプランの発想はない。ましてや、現行の部分準備銀行制度を廃止して、100%準備システムにするというシカゴプランの根幹となる貨幣改革案もまったく念頭にない。

こうした議論を踏まえつつ、会計SDモデルでシミュレーション分析している新しい貨幣システムを「公共貨幣(public money)」システムと呼ぶのが相応しいという考えに辿り着いた。債務貨幣を民間の中央銀行が創る貨幣、すなわち私的貨幣(private money)と考えれば、一般的に私的な概念の対極にあるのが公共(public)という概念であり、おのずから公共貨幣(public maney)となる。しかも公共という概念は、NGO(非政府組織)やNPO(非営利組織)といった組織をも包括できる広い概念であり、貨幣が果たすべき公共の福祉や厚生の向上といった役割をも十分に担いうる意味合いを持たせることができる。

加えて、政府貨幣といえば政府のお金、政治家や官僚の自由裁量となるお金という意味になり、貨幣改革が目指す理想社会の実現に最適な概念たり得る。

さらに公共貨幣は、第1章で提唱した「むらトピア経済」の概念とも調和し、第5章で分析した「債務貨幣・株式所有システム」の代案として第11章で議論する「公共貨幣・資本保有システム」といったより全体論的(Wholistic)な環境にやさしい経済社会システムの活動を根底から支える概念としても相応しいのではと考えた。最近では世界中の若手経済学研究者にも公共貨幣という概念が徐々に広がり始めている。

 9・1・3 米国議会ブリーフィング

2011年7月26日、米議会ブリーフィングにデニス・クシニッチ下院議員(民主党大統領候補2回)から招待された。米議会ブリーフィングでは、前日のSD学会と同様に「増税なしでも不況、失業、インフレを引き起こさずに政府債務は完済できる」という内容で報告させていただいた。

この議会ブリーフィングから2ヶ月後の9月21日に、クシニッチ議員は、シカゴプランの現代版である米国貨幣法を骨子とするNEED法(National Emergency Employment Defense Act HR.2990)を提出した。1945年7月2日にヴォーヒス下院議員がシカゴプランの法案を提出してから、実に66年ぶりのシカゴプランの提出である。身の危険を顧みない同議員の勇気に改めて、深い感銘を受けた。米国にも正義の人は沢山いる。希望はある。私たちも頑張らなければ。

9・2 「貨幣とマクロ経済ダイナミックス」の出版

公共貨幣システムの研究は、貨幣改革の研究者や国際システムダイナミックス学会の経済学チャプターの研究者には注目されたが、いわば異端(タブー)の経済学研究であるため、主流派の研究者からは無視されるという状況が続いた。その間も、リーマンショック後の政府債務危機やその克服のための緊縮財政・増税が経済不況を益々深刻化させ、長期化させていることに胸が痛み続けた。

そこで、これまでの研究成果をこうした深刻な問題解決に役立たせるためにも、この研究を早く出版して多くの経済学者に検討の機械を持っていただくことがその打開策だと強く念願するようになった。幸いにも、文科省の研究費や大学の図書出版支援費を利用すればなんとかなるとの感触を得て、海外の大手出版社との交渉を開始し始めた。そんな矢先の2013年3月、突如大学を追われ、出版の機会を奪われた。

このままでは公共貨幣システムの研究は永遠に葬り去られるのではと強く危惧し始めた。そこで、経費や時間のかかる英文の編集チェックをあきらめ、PDF現行の簡易印刷の形でなんとか出版にこぎつけた。

第8章で考察したように、私たちは第一次世界大恐慌で2つの教訓を得た。1つは、フィッシャーの『100%マネー』であり、他の1つはケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』である。フィッシャーの理論は、経済活動の中で内生的に信用創造される現在の債務貨幣制度が不況や債務危機の根本的な原因であるとする画期的なものであるが、ケインズの一般理論のようなマクロ経済分析の手法を欠いていた。一方ケインズの理論は、経済をマクロ的な視点から捉えるという画期的なものであるが、フィッシャーのような、内生的に創造・破壊される貨幣の分析を欠いており、それが現在の債務危機をもたらす根本原因となった。不幸にもフィッシャーの著書は第8章で見たようにその後黙殺され、またケインズの理論も第1章で見たように1980年代から「反ケインズ革命」の嵐の中で次第に退けられた。

このようにして第一次世界大恐慌の教訓が活かされない空白状態の中で、リーマンショック(第二次世界大恐慌)は起こるべくして起こった。にもかかわらず、経済学者はその後もこの経済恐慌から教訓を学ぶことなく、第1章で指摘したように「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ごとく、またゾロゾロと以前の新古典派経済学に戻り始めている。

図9・1に図示したように、『貨幣とマクロ経済ダイナミックス』は、そうした空白状態をゾンビ経済学に代替して埋める経済学である。その特徴は、フィッシャーの100%マネーとケインズの一般理論を統合し、同時に両著書の理論的欠陥を補完しあったものである。まさに第二次世界大恐慌からの教訓として生み出されたといえなくもない。もはや私たちは古い債務貨幣システムに後戻りは出来ない。公共貨幣システムという代替システムデザインで、新しい経済社会を建設し始める時代が到来した。

9・3 公共貨幣システムと貨幣の流通

 9・3・1 公共貨幣システムの特徴

貨幣改革3条件を導入した公共貨幣システムとは、どのようなものになるのだろうか。これまでの議論を振り返りながら、その特徴を考察してゆこう。

第2章の図2・4で現行の法体系によって法貨とされる、通貨及びマネタリーベースの関係を図示した。

ところが現在の部分準備銀行制度の下では、無からお金が信用創造されるようになり、第4章の図4・1で見たような通貨及びマネーストック図となる。こうして信用創造される要求払預金(信用)は通貨でも法貨でもなくなり、「預金として機能している」にすぎないものとなる。

そこで、こうした現行の貨幣制度を貨幣改革3条件を導入して公共貨幣システムに移行すると、以下のような図9・2のシステムとなる。この移行に必要となる法体系「日本国公共貨幣法」は第Ⅲ部で詳述するとして、ここではこの図を用いて、第4章の図4・1と比較しながら公共貨幣システムの特徴をイメージしていく。

特徴1:これは貨幣改革の条件①から派生してくる特徴である。民間会社の中央銀行を政府の組織に統合して、公共貨幣委員会のみが貨幣を発行できる権限を持つようになれば、政府貨幣(硬貨やコイン)は政府が発行し、紙幣(日本銀行券)は日銀が発行するというこれまでの通貨制度(通貨=貨幣+銀行券)が廃止される。そして公共貨幣は、硬貨、紙幣、デジタルといった素材を問わず、すべて公共貨幣委員会によって統一的に発行される法貨となる。すなわち、流通に投下されるマネタリーベースは、ずべて公共貨幣の法貨となる。

特徴2:これは貨幣改革の条件②から派生してくる特徴である。すでに第8章のフィッシャーの100%準備システムの節で述べたように、無からお金を創り出す民間銀行の信用創造を禁止し、100%準備とすれば、日銀当座預金=100%準備金=要求払預金となり、同時に、マネタリーベース=マネーストックM1となる。すなわち、要求払預金は公共貨幣委員会が発行する法貨となる。この結果、公共貨幣は内生的に無から創造されることも、破壊されることもなくなり、「預金として機能する」という制約も受けなくなり、常にマネタリーベース量がマネーストックとして安定的に流通する。

そこで問題は、もし銀行が要求払預金を100%準備金として保管することを義務付けられれば、企業等に貸し出す資金はどうやって調達できるのかということになる。銀行の自己資金やこれまでの貸出の返済金を貸出に充当することもできるが、主な貸出資金は消費者が要求払預金から当分は余分なお金として貯金にまわす貯蓄預金となる。すなわち、要求払預金が貯蓄預金となりそれが企業に貸し出され、要求払預金として再び銀行に戻ってくる。このように公共貨幣は流通し始める。詳細は以下の節で述べる。しかし、これだけでは成長する経済に必要となる投資資金を十分に提供できなくなる。そこで、次の特徴が必要となる。

特徴3:これは貨幣改革の条件③から派生してくる特徴である。経済成長や社会福祉の充実に必要な貨幣は、公共貨幣委員会が政府予算に組み込んで常時流通に投入する。このようにマネーストックが経済成長に見合った額だけ流通に投入されるようになれば、バブルやデフレといった景気変動を引き起こすこともなく、公共貨幣は持続的経済成長をもたらし、同時に国民の福祉向上に貢献できるようになる。

 9・3・2 公共貨幣と銀行貸出

公共貨幣システムへの移行によって、信用創造メカニズムはどのように変更を受けるのであろうか。ここでは公共貨幣システムでの銀行貸し出しのメカニズムをさらに詳しく見てゆく。会計システムダイナミックスを用いた信用創造メカニズムのSD図4・2が具体的にどのような変更を受けるのかを考察する。

公共貨幣システムの下では、銀行の貸し出しプロセルは、図9・3のようになる。同図におけるフロー変数の番号や記号は、比較を容易にするために図4・2と同じものとしてあり、以下の説明リスト項目とも一致する。


図9・3では、消費者が普通預金(要求払預金)を定期預金(貯蓄預金)に振り返るところ(図の右上の部分)から始まる。この結果、例えば100万円の普通預金が貯蓄預金口座に移る。同時に、銀行は要求払預金の100%準備金を100万円減らして貸出資金口座に振り返る。

こうした前提のもとで、第4章の信用創造の場合と同様に企業が借金をする場合を考察してゆくが、公共貨幣のもとではマネーストック(要求払預金)は同様に増加しなくなるというメカニズムを見てゆく。

⑴ 企業が100万円の長期ローンの申し込みをする(企業の借入金増加)

⑵ 銀行はこのローンの審査を行い、パスすれば融資する(銀行の貸出資産が増加し貸出資金が減少)。この時、銀行は十分な貸出資金がなければこの融資に応じられないので、これまでのように無から信用創造して要求払預金を恣意的に増やすようなことはできなくなる。

⑶ 銀行はこの融資額を企業の当座預金口座に振り込む(銀行の要求払預金の増加)。同時に銀行は当座預金増分の100万円を100%準備金に振込み、要求払預金の増加に見合う100%準備を確保する(銀行の100%準備金の増加)。このプロセスが無から信用創造する場合にはない。

⑷ 企業がこの振込融資額を確認すす(企業の当座預金の増加)。

以上のローン・融資の取引により、消費者の貯蓄預金への振り替えにより減少した銀行の要求払預金(負債)と100%準備金(資産)が同時に増加してもとの状態に回復する。同時に増加した貸出資金が再びなくなり、その分、貸出(資産)が増加し、貯蓄預金(負債)の増加とバランスする。このようにして、銀行および企業の貸借対照表の資産と負債が同時にバランス(増加)するように変化する。すなわち、企業の長期ローン申込みという1つの取引で、2部門のマクロ経済セクターの貸借対照表の6つのストック量が同時に変化する。これが複式簿記によるモデリングのエッセンスである。

しかも、この増加した要求払預金は、消費者が貯蓄預金に振り替えた際の減少量と同じになり、よって、経済全体では、要求払預金(マネーストック)に変化は生じない。すなわち、企業の長期ローン100万円(投資)が、貯蓄の100万円流出を相殺して、マネーが再び流通に投入されて、経済を均衡させることになる。このプロセスが、無から信用創造する部分準備銀行制度のもとでは企業等へのローン(銀行貸出)でマネーストックが増加し、バブルを発生させる要因となるのとは異なる点である。

もし企業のローン(投資)が貯蓄額の100万円に満たなければ、その分GDPギャップが生じることになり、政府支出を増大してそのギャップを埋めることが必要となる。公共貨幣システムではこうした公共貨幣が非常に簡素でしかも効果的となる。

次に、企業が借金を返済すると、上のプロセスとは逆に初期状態に戻ることを見てゆく。

(a) 企業がローンの返済をする(企業の借入金の減少)

(b) 銀行がローンの返済を受ける(銀行の貸出資産の減少)

(c) 銀行はローン返済額を企業の当座預金口座から同時に引き出す(銀行の要求払預金の減少)。同時にこの分の準備金が不要となるので、銀行は100%準備金の振り替えをして、貸出資金の保有量を同額増やす

(d) 企業がこのローン返済額の引き出しを確認する(企業の当座預金の減少)

以上のローン返済の取引により、銀行の貸出(資産)と要求払預金(負債)が同時に減少する。また、企業の借入金も当座預金も同時に減少し、企業の借金は完済する。さらに、100%準備金も貸出資金への振り替えで同時に減少し、銀行の貸出資金が100万円増加する。すなわち、ローン返済という1つの取引で、2部も門のマクロ経済セクターの貸借対照表の6つのストック量が同時に変化する。この結果、消費者が最初に100万円の要求払預金を貯蓄預金に振り替えた初期状態と同じ隣、最初の出発点に戻る。すなわち、銀行が新たな融資先を見つけなければ、貯蓄オーバーとなりGDPギャップが生じる状態となるが、経済全体のマネーストックに変化はない。

部分準備銀行制度のもとでは、企業の当座預金(資産)と借入金(負債)が同時に減少して信用収縮となり、その分マネーストックが消滅して不況や大恐慌の引き金となる。このように、部分準備銀行制度のもとでは、企業がお金を借りたり返済したりすると、要求払預金(マネーストック)が信用創造されたり、信用破壊されたりする。第8章のシカゴプランで分析したように、この信用創造や信用破壊がマネーストックの増加や減少を引き起こし、インフレやデフレ、好況や不況をもたらす根本原因となるのである。

一方、公共貨幣システムのもとではこうして減少した要求払預金(マネーストック)は、銀行保有の貸出資金の増加となり、経済全体としてのマネーストックに変化はない。消費者や企業の手元から、一時的にマネーが銀行の手元に一部移るだけである。そこで、銀行は新たに100万円の貸出資金を手元に抱えることになるので、資産としての貸出資金の効率的運用のために、新たな融資先を求めて低金利融資の熾烈な競争が始まることになり、再び経済が活性化されてくる。信用収縮がなくなると、このように経済は自動的に活性化されてくる。

以上のように公共貨幣システムのもとでの銀行貸し出しのメカニズムを考察することにより、フィッシャーらが貨幣改革プログラムで指摘したこと、すなわち部分準備銀行制度をなくせば「好況や不況をもたらす要因」が除去できるということを改めて確認できた。次なる確認は、この好況貨幣システムのもとで政府債務は本当に完済できるのかということである。先を急ごう。


今回は以上です。

次回は、「公共貨幣で国の借金が完済できるか」という話題をを勉強していこうと思います。