貨幣は公共財ではないの?(連載10)

第10回目は、「金融による権力支配の実態」という話題です。

教科書はこれまでと同じ

NPO法人日本未来研究センター理事長山口薫さんの著作

『公共貨幣』第5章の後半になります。

前回の「お金はどのようにして支配の手段となるのか」というコーナーでは現代の世界を支配している「債務貨幣システム」についてみてきましたが、今回はさらに思考を深めて「株式所有」による「債務貨幣・株式所有システム」の実態について学んでいきましょう。

債務貨幣システムとは、簡単にいってしまえば、マネーを無から生み出し、それを人に借金として背負わせ、それに複利の利息を付し、さらに借金という債務で人を構造的に支配しようとするシステムといえます。そして債務者同士を互いにいがみ合わせ、自分たち銀行はカルテルを組んで金融資本と呼ばれ、世界の経済を支配していこうというものでした。

権力者は、Divide & RuleまたはDivide & Control 、いわゆる「分断して統治せよ」原則を支配の常套手段としてきました。そのために、東西対立、南北対立、人種差別、民族差別を煽り、宗教戦争を利用し、政党対立と労使対立で国民を分断して、思いのままに支配するように仕向けてきたのですが、さらにこれに企業、メディア、不動産の支配を目指して民間の株式所有システムを付け加えることで「債務貨幣・株式所有システム」を完成させてきたのです。

金融資本家たちはお金で企業の株式を所有し、あるいは買収・合併、売却、清算を通じて本来経営者と労働者のものであるべき企業組織をマネーゲームでもてあそび、支配しようとしてきたのです。このシステムが有効に働くためには、社会は安定的で共生的あっては効果がありません。「債務貨幣・株式所有システム」が効果的に機能するための社会的条件は、社会が不安定であること、社会の成員間で競争が盛んに行われること、常に緊張状態であること、こうした条件がもっとも好ましいとされます。皮肉ではなく、こうした社会を自由で民主的な社会と呼んでいるのですが、本当に自由で民主的であるのは、金融資本家たちだけであり、彼らが社会を自由にコントロールし、彼らの民主的な話し合いで世界を支配しているのです。

これはいわゆる「陰謀論」でしょうか。そうではありません。

OECDのデータに基づいて、科学的、客観的に企業支配のネットワーク構造を分析した研究論文が世界的な注目を浴びています。スイスのチューリッヒ工科大学の研究者3名により発表された「グローバル企業支配のネットワーク」という論文がそれです。

それによると、世界194カ国の3,700万社を分析したところ、1,300万社の所有形態のリンク状況がわかってきた。そしてそのうちの4万3000社の多国籍企業は、わずか0.6%のオーナーグループにより支配されており、そのもとで役員や経営陣が相互乗り入れしているコアーの経営グループもわずか0.7%であるということが明らかになってきたということです。そしてこうしたグループが残りの全企業を株式によって所有している実態がわかってきました。もっと具体的にいうと全体の0.024%にあたる146の企業が世界の取引全体の40%を占めており、それを737社にまで拡大してみれば、なんと世界全体の取引の80%を占めるということなのです。

これは陰謀論ではなく、誰が世界経済を支配しているのかというれっきとした研究論文なのです。そして世界経済を実効支配している企業をリストをみると、

第一位はバークレーズというイギリスの金融会社で、

第二位はアメリカ合衆国のキャピタル・グループ。

第三位はやはりアメリカ合衆国のエフエムアール・コーポレーションという会社です。

以下、フランスのアクサ、ステート・ストリート・コーポレーション、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー、リーガル・アンド・ゼネラル・グループ、バンガード・グループ、ユービーエス、メリルリンチなどなど、どれも銀行や投資銀行などの国際金融資本であることがわかります。ちなみに日本の三菱UFJフィナンシャル・グループは22位、野村ホールディングスは38位、預金保険機構は44位、りそなホールディングスは48位でした。

さて、世界の大企業であるGMや世界のトヨタ、エクソン・モービルやロイヤルダッチシェル、デュポン、ファイザー、モンサントなど世界を牛耳っていそうな企業は上位50社にも入っていないのです。実業の企業など世界の金融資本からみれば、まだまだヒヨッコにすぎないのでしょう。

さらに2008年のリーマンショックに起因する金融危機の際には、これらの企業はアメリカの連銀が「倒産させるにはあまりに大きすぎる」ということで、密かに16兆ドル(当時の円ドルに換算すると1,654兆円)もの融資を行なっていたことが2011年の7月に米国会計検査院の報告書により明らかになったのでした。当時の平均ドル円レートを103円とすると、なんと1648兆円ということになります。その頃アメリカ政府は膨れ上がる累積債務に苦しんでおり、議会が承認した債務上限14.3兆ドルに達していて、議会の新たな承認がなければアメリカ政府は破綻かと騒がれていた時期だったのです。ロン・ポール議員がこの会計検査報告を請求していなかったら、アメリカ国民はこうしたことを一切知らされることはなかったのです。

さらに米連銀が救済したのは、アメリカ合衆国の銀行だけではなく、ヨーロッパの銀行へも融資をして助けていることです。つまり米連銀は世界の経済を牛耳っている金融カルテルの11の銀行を救済した、ということになるのです。

「グローバル企業支配のネットワーク」という論文の著者はそうした銀行カルテルを構成グループをスーパー・エンティティーと呼んでいます。つまり、領土は持たないが国家のように行動する実体、という意味です。マルタ騎士団のようなものですかね。

「債務貨幣・株式所有システム」は社会にどんな問題を引き起こしているのでしょうか。大きく分けて次の4つに分類されます。

1 経済問題:バブル・不況・失業・債務危機・所得格差等

2 社会問題:人種差別・男女差別・宗教対立

3 環境問題:遺伝子組換え・農業破壊・環境破壊・原発による放射能汚染

4 政治問題:戦争・テロリズム・核開発・TPP・安保法案・沖縄米軍基地問題等

これらの問題を解決しようとすれば、ここの問題について処理していこうという対症療法では解決できず、これらの問題を引き起こしている「債務貨幣・株式所有システム」の構造そのものにメスを入れなければ根本的な会計にはならないということなのです。経済的に安定した平和で差別のない持続可能な社会を創るためには、その大本にあるシステム構造の変革にエネルギーを注ぎ込まなければならないのです。システム構造の変革を目指して、経済問題を根本から変革することは、同時に社会問題、環境問題、政治問題の解決につながるのです。

今回は以上です。

次回は、「国の借金はなぜ増えるのか」ということについて勉強していこうと思っています。